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空を歩く

GIFT《2:樹》〜マヤ紀行2001〜

 翌日は他のツアーとキャラバンを組んでなかなか行けないボナンパックとヤシュチランという遺跡へ行く。ヤシュチランは舟でしか行けない遺跡で、ずいぶん凝ったツアーだ。
 車中から朝日を拝みながら、しばらく走ってようやく朝ごはんの食べられるローカルレストランに着いた。外の空気の中で、木のテーブルで食べるバイキング。小さいが気持ちのいい店。それがなかなかおいしくて、スクランブルエッグやフルーツの生ジュースなど、どれもごきげんだった。
 片づけに来てくれた10代くらいの現地の女の子は、それ以上に新鮮で純真なはにかんだいい笑顔を見せた。それはあとあとまで尾を引くハッとする笑顔だった。
 もう思い出せないくらい前にしか見たことがないような、曇りのないたましいがこぼれていた。
 
 そこからまたごんごん走ってボナンパックへ。そこはある部族が管理していて、彼等の車に乗り換える。普通の(というか日本ではあまり見かけないワイルドな)乗用車2台に分乗し、未舗装の道を砂ぼこりを巻き上げながら10分くらい行ってゲート。運転手が自分でそこを開けて中へ。そこからはすぐで、歩いていく。
 にわとりや七面鳥のような鳥がひなとともにのんびり歩き回り、小さな建物がいくつか建っているのどかな空間を抜けると、ただ切り開いて地面を平らにしたといったような細長い土地があった。丁度飛行機が着陸するのにいい大きさで、“飛行場”なのかもしれない。
 そこを横切ると左右に3mくらいの石のオベリスクが並んでいて、入り口らしいとわかる。入るとすぐにまるでマヤの壁画から抜け出たような女性や女の子たちがアクセサリーを広げて売っていた。
 何の気なしにのぞくと、小さなひもで出来たミサンガのようなブレスレットが目についた。遺跡に行くのだし、魔除けにブレスレットが欲しいと前から思っていたが、これまでちょうどいいのがなかった。記念にもなるしひとつ買うかと値段をきいた。
 その時、ふと、端の方に針金のようなものを細工したうずまき型のブレスレットがあるのに気がついた。ひもはやめてそれを手にした。邪魔にならない感じで気に入ってそっちにした。あとで同じツアーのHさんが、そのうずまきは“水”を意味していると教えてくれた。
 ますます気に入ってそれから寝る時もずっとしていた。

 ボナンパックはこじんまりとその先にひらけていた。
 入り口から続く道を抜けてわたしの目にまず飛び込んできたのは1本の大きな樹だった。その樹は印象的なつるんとした感じの茶色い木肌で、そんな樹は他になく、その空間でひときわ目立っていた。
 うつくしく天に向かってひらいている枝は気持ちよくすうっと伸びていて、わたしを一目でとりこにした。遺跡に来ているのにその樹ばかり目で追った。

 遺跡にとりつくと階段を少し登って壁画をのぞく。なかなかスゴイ壁画らしい。全部で4室。これ以上の傷みをくいとめるため、そこに入れるのは3人までと決まっていた。待っている間、振り返ってあの樹を見下ろした。つくづくほれぼれする。
 あの樹のおかげでここの空間はとてもあかるく気持ちのいい場所になっている。そんな気さえした。ここは小規模で壁画を見終えると階段を降りて戻り始めた。
 当然のように現地ガイドのKさんはまっすぐその樹に向かって歩いて行った。
 やはりいい樹らしい。みんなで群がって樹に触れる。
「セイバの樹だ。」とKさんが言ったと聞いて、わたしは細胞が沸いた。
 わたしがマヤに来ることになった大きな後押しのひとつとなったのが“セイバの樹”だったからだ。

 このツアーのことを知ったあと、TVでマヤの末裔の現在についてのドキュメンタリーがあるのに気がついて見ていた時のことだった。末裔達の厳しい歴史を目の当たりにする中で、マヤの町の中心には必ず1本のセイバの樹が植えられるとナレーションが入ってその映像が映った。
『天と地をつなぎ、町を守っている。』そんなような解説だった。
 見ていたわたしはみるみるうちに熱いものが込み上げ、ボーゼンとTVの前で涙流れるままその樹を見つめた。そのあとTVでなんと言っていたかは聞こえなかった。
 これはただの風景の一部といったような気休めのような表面上のシンボル・ツリーではない、と感じた。
 “ほんとうに”天と地をつないで町を包み込み、守っている。
 そのことがわたしのしんにガビンときて、熱いものが滂沱と流れ落ちてしまったのだ。嗚咽するように泣けてきた。じぶんでも不思議なくらい感じ、動じていた。
 その樹は神を通し、神を宿し、神そのものでもあるようだ。そしてそれはこのうえなく清浄で慈愛に満ちている。そのことに感応したのだろう。驚いた。こんな涙は経験したことがなかった。
 セイバの樹のそばに立ちたい、と想った。そんなことがあった。
 もっとも後日談としてその樹は実はセイバの樹ではなかったのだが、それに劣らず素晴らしい樹には違いなかった。
(ほんもののセイバの樹にはこののち出会うこととなる。写真は実際のセイバの樹。)
                                《3》へつづく
GIFT《2:樹》〜マヤ紀行2001〜_c0054168_1973365.jpg

by ben-chicchan | 2005-09-27 19:56 | 紀行文
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