空を歩く

エンジェル・フライ*3〜秋風*

 その日は秋の色が濃くなって、夜は底冷えがした。
 ひとりで部屋にいたマオは自分の胸にしのびこむ秋風を感じていた。

「ああ、むねが痛いよ。フラウ。そこにいる?いるならただ、そっと手をにぎって。」
 机につっぷしたマオの手が蛍がともるようにじんわりあたたかくなった。
 フラウだった。
「あったかくて泣けてくるなあ・・。」
 姿は見えないがそこにいるのがわかった。
「そこにいてくれる・・。
そうやってそっと手をにぎってくれたら、やっていけるような気がする。」
「やすあがりだね。」
 フラウの金の巻き毛がぱさりと首筋にかかった。
「フフフフ。」泣き笑いだ。
「どうした?」
「どうしたってひとりなんだ。例えもし好きな人とうまくいっても、家族がいても、ともだちがいても、このむねの真ん中の洞くつに吹く風のような孤独にむねを締め付けられる。いったいどういうこと?」
「それがその器に生まれ落ちるってことだからよ。」
「どういうこと?」
「大きないのちをわけたものだから。」
「だから寂しいっての?」
「ひとっていきものは哀しみに生まれて喜びにむかっているものだから。」
「?」
「分かたれた哀しみはやがてひとつになる喜びのためにあるの。
その痛みの奥をよくみてごらん?哀しみの皮をかぶったぬくもりもあるはずよ。」
「そんなのだめだよ。哀しみの海だよ。」
 フラウが背中に手をやったのがわかった。
 ゆっくりまるで赤んぼうにするようにさすっている。
 じっとされるがままになっていると、なんだかむねの真ん中の氷のような固まりが溶けてくるようだった。
「ひとはひとりなんだ。どんなに恵まれてても、しあわせでも。それは変わらない。
だけどね、さすられてごらん?こうして万年雪のようなむねにつまった固まりも溶けることもある。ひとの手はなんのためにあるの?ひとをあたためるため。抱きしめるため。それがマオにもできるって、ほんとはスンゴイことなんだよ。」
 スンゴイなんていう天使に可笑しくなって、マオは思わずくっくっくと肩をふるわせた。

To be continued…
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by ben-chicchan | 2006-01-01 15:12 | story
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