空を歩く

Summer weeds & winter trees

 気がついたらおなかがすいたので、チチュは思いきり鳴いた。
 そうしたらその大きく開けた口にだれかがやわらかくておいしいものを入れてくれた。ずっとチチュをあたためていてくれたふたりだった。そうして交代でおなかが落ち着くものを運んでくれた。
 ふたりがチチュを呼ぶとき「チチュ」というので、チチュは自分がチチュなんだとわかった。
 チチュのほかにそこにはチチュとおなじくらいの大きさのがふたりいた。
 ひとりは「チュ」で、もうひとりは「チュチュ」。
 チチュが初めて目をひらいた時、世界はまぶしくてチチュはくらくらした。ようやく少し慣れて目を細めてみると、チチュのいるところから下の方は一面みどり色だった。
 それは風がくるたびに光り、ざわざわととてもやすらぐ音をたてた。
 あの、あったかくて大きなふたりの胸の音のように、チチュはその音にうっとりとした。
 目が慣れてくると、青い青い空間に夢のような白いかたまりが浮いているのが見えてきた。それは刻々と姿を変え、一時も同じ形をしていなかった。
 チチュがそこにそうしている時、ひとつもたいくつでないのはそのせいだ。
 青いと思っていると、その空間はみるみる色を変えにわかに暗くなり、白かったやわらかそうなあのかたまりはどす黒い湿った重たいものになり、たちまち上の方から透き通った滴が落ちてくる。
 頭の上から時折ぽつんと自分にあたってははじけるそれも、チチュには冷たくてきれいで不思議で驚かされる。
 なんてところだろう!
 なんてたいくつしないところだろう!
 気がついたらここにいた。
 このきらめいてながれていく透明なもののように、始まりがどこだかわからないところから降ってきたのだろうか?チチュも。
 そんな風にはことばにはならないが、そんなようなこころで半分閉じかかった目で遠い
ところをぼんやりみつめていた。
 うつくしくはあるが、ふくふくした羽根をすべっていく水滴は生まれて間もないチチュたちのささやかなぬくもりをぬぐいさろうともする。
 それに対抗するようにわずかなともしびを消すまいとするかのように小さなからだは知らず知らず小刻みにふるえ始めた。内側からいのちを発電するかのようなささやかな営みを尽しながらけなげにじっと耐える。
 毛玉のようなみっつの小さなかたまりが身を寄せあってふるえているところへ、やっと待ち望んだ大きなふたりが帰ってきた。
 いつもの「おみやげ」を口いっぱいにほうばってふたりのおなかの羽毛の下におさまってしばらくすると、ふるえはとまり、大きいふたりのぬくもりはやがてしんからチチュたちをあたためていった。
 そうして吸い込まれるように生まれる前のどこかへとチチュは眠り込んでいった。

 風がふいている。ほおをなでる風はひそやかでやさしい。
 あたたかい日だ。
 たくさんの声がきこえる。
 チチッチッチッ。リュリールリルリル。
 ヒュイーヨッ。 ヒュイーヨッ。
 ヨロコビのこもった声だ。
 青一色のあの空間が澄み切って白いかたまりが光っている。
 世界はあかるくて、すがやかだ。すべてのものがほほえんでいるようだ。
 チチュもワケもなくうれしくて羽根をふくらませた。すると地肌に風が通ってますますうれしくなってブルブルッと身震いした。
 風がチチュたちの上の緑色の重なりあうひさしをずらすごとにキラリッキラリッとまばゆい光が目にまぶしい。
 緑色一面にみえたものが一枚一枚別々に風にそよいでいるのに気がついた。 
 そしておもてとうらと別々のいろをしていてひるがえると光るのがすばらしかった。

 To be continued・・・
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by ben-chicchan | 2005-02-25 22:37 | story
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