空を歩く

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パップー君が住んでいる小さな星*4

 いろんな木を見上げながらゆっくり歩きました。
 村から森をぬけるのですが、なかなか木によばれません。
 もう、その丘をこえると“ただそれだけのかべ”が見えてくるというそのてまえの、せせらぎまできました。すこし、かたをおとしてパップー君は思いました。
(ぼくを呼んでいる木はないんだろうか・・。)
 その時、丘の上に立つ1本のナギの木が目にはいりました。
「あっ!」
 そういってパップー君はかけだしました。
「いたいた!この木だ!ぼくの木!」
 それはいつもとおる丘にめじるしのようにはえているすてきなナギの木でした。
「そうか、これか。」
 うなずいて、大きなナギの木を見上げて、目でなぞってみました。
 大きくて大きくてとてもきれいで、そういえばうっとりするくらいです。
 パップー君はとても手のまわりきらない幹にだきつきました。目をとじてしばらくそうしていました。
 夕方の風がふいてきて、とおくにいちばん星がひかりはじめました。
 パップー君はすこしはなれてすわると、もう一度ナギの木を見上げました。いつの間にか風の音もきこえないような気がしました。
 じぶんがナギの木になって、土から水をすいあげているような気がしました。星もない黒い宇宙に、ナギの木になってうかんでいるようでした。
 気がつくとまわりも真っ暗で、星がふってくるようにまんぱいでした。
 パップー君は明るいかおで立ち上がりました。
 パップー君はこのいつも見なれていたナギの木が、パップー君のことを好いていてくれたのがはじめてわかって、とてもしあわせなきもちになったのです。
 ぼくにはこの木がいる。そして、そんな木はほんとはあちこちにいる。
 パップー君にはとてもよくそう思えて、元気よくかけだしていきました。
 星がおっかけてくるようでした。
 ふたつある月が、とてつもなく大きくぽっかりとうかんでいました。

 おわり
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by ben-chicchan | 2005-05-09 17:32 | story

パップー君が住んでいる小さな星*3

 サワジイはいっしょにいるとだれでもぽかぽかとあったかくなって、別れる時はみんな笑顔になってしまうふしぎなおばさんで、ウラの村でざっか屋をやっています。
 パップー君はサワジイがだいすきです。
 村のまんなかの大通りのほぼまんなかへんにサワジイの店はあります。いつも人だかりがしているのですぐわかります。大きなおなかのおじさんのあいだをすりぬけて入ると、いつものようにサワジイの大きな笑い声が店にひびいていました。
 サワジイはおいしゃさんではないのですが、人の顔色がよくわかってなにをたべたら、なにをしたらよくなるかとてもよくしっていました。
 パップー君が入ってきたとたん、サワジイは大笑いをやめました。
「あれあれ、月割り草がしおれたみたいだ。なんかあったかね?」
 パップー君はほっとしました。やっぱりサワジイはたよりになる。
 あったかいお茶をだしてもらうと、パップー君はサワジイに口をひらきました。
「ぼくがせわしてる牛が、プナンのとこのすえっ子のイオをつのでついてけがさせちゃったんだ。プナンはぼくのせいだってこわいかおしてどなりこんできて、かあさんもおんなじにおこった。でもぼくはとめようとしたんだ。イオがぼくの牛をはやしたんだ。それでほんとはおしおきに牛小屋にとじこめられてたのをこっそりぬけだしてきちゃったんだ。」
 まじめなかおになってきいていたサワジイは、大きくうなずいてものすごくたっぷりにっこりしました。そうなんだ。これでいつもなんだかだいじょうぶって気になってきちゃうんだ。
「あんたにいちばんいい方法をおしえてやるさ。」
 にっこりでもうずいぶんこころがかるくなっていたパップー君は思わず身をのりだしました。
「あんたをいちばん好いてくれる木をおさがし。」
「木?」
「どうやったらそれがぼくを好きだってわかる?」
「そんなのかんたんさあ。よんでるからね。」
「よばれるの?」
「そっちへいきたくってしかたのなくなる木がそれだ。」
「ああ。」
「そしたらね、その木のりんかくをていねいになぞってごらん。」
「なぞる?」
「そう、目でなぞる。そうするとその木にとても入りやすくなる。」
「入るの?」
「べつにあなをあけて入れというんじゃない。きもちだよ。そうしたきゃ、だきついたっていい。」
「そうすると?」
「してみたらいいさ。それがあんたの方法だ。」
 それだけいうともう、サワジイはおとなたちの方へむきなおって大きな声でまたしゃべりだしていました。だけど、その前にとびきり大きなウインクをのこしてくれたので、もうなにもきかなくてもいいような気がしました。
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by ben-chicchan | 2005-05-07 17:55 | story

パップー君が住んでいる小さな星*2

 パップー君は村の人が“かべ”と呼んでいるところに歩いてきました。
 そこはもうずいぶんとむかしにつくられて、今ではもうなんのためにあったのかもわからないけれど、ずっとずっと南から北へ長くのびている石のかべのことです。
 パップー君ははじめてここへ来たときのことを思いだしていました。
「三角帽(さんかくぼう)はちかごろいないな・・。」
 パップー君がここへはじめて来たのはまだ字もよめない小さなころのことです。
 あんまり小さいうちは池にはまってもいけないので、おとなはなるべくとおくへ行かせないようおどかします。
“かべのほうへ行っちゃいけないよ。あのむこうにはこわいところがあるんだから。”
 だけど、だからよけいにこどもは行ってみたくなるのです。
 そして、かべのところでこわいかおをしたおとなに会ったのです。
 でもパップー君にはその人はちっともこわくなく、へんな人だけれどおもしろい人だと思ったのでした。
 その人は三角の黒い帽子をかぶったかみの長いせのひくいおじさんで、ひげがぼうぼうはえていました。きっと見た目にはこわい人なんだろうけど、パップー君はおくのほうの黒水晶(くろずいしょう)みたいな目が、のじかみたいだなあと思って、思わずみつめてしまったのでした。
 パップー君はきいてみました。
「このかべはずっとつづいてるの?どこまでいってもかべがあって、むこうへは行けないの?」
 三角帽はじろっとみるといいました。
「このかべは“ただそれだけのかべ”っていって、たいしたことはない。」
「ふーん。」
 パップー君がそれでもなんとなくかおをみつめているので、三角帽はきまりがわるくなってつけたすようにまたいいました。
「どこまでもあってとても高くて、とてもじゃないむこうへ行けそうにないだろう?」
「うん。」
「だからこのかべにはこう名まえがついている“ただそれだけのかべ”って。」
「うん?」
「ぜったいにむこうへ行けないように見えるかべはほんとうはこんきよくあるいてってみるとあながあいていたり、くずれてたりする。“ただそれだけのかべ”ってことさ。」
「そうなんだ。」
「よっくおぼえときな。」
「うん。」
 そういったきり、三角帽はパップー君がかべにそってあるきだすのをだまって見おくっていました。
 そしてそのことばどおり、こどもの足でもしばらくいくとそのかべにはわれめがあってなんなくそこから出て、パップー君は“ただそれだけのかべ”のむこうのけしきをながめたのでした。
 そこにはこちらがわとおなじような、でもとてもうつくしい丘がつづいていて、草が太陽に光って風になびいていました。パップーくんはすっかりそのけしきが気にいって、星のウラへ行くときはいつもそこをとおるようになりました。
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by ben-chicchan | 2005-04-25 18:34 | story

パップー君が住んでいる小さな星*1

 パップー君が住んでいるのは小さな星です。
 1日もあればゆっくりひとまわりしてもどってこられるくらい。
 こっちからはむこうをウラって呼んでいるケド、むこうがわもじつはこっちのことをウラって呼んでいます。
 ココとトナリとウラですんでしまう大きさです。

 パップー君はとことこ歩いていきます。ここにはクルマとかいうものはありません。あんまりはやく走ったら行きすぎてしまうから。
 急ぎすぎるとたましいを追いぬいてしまうとむかしからいわれています。
 おばあさんがこどものころ、“なぎさ”に“とおく”から来たひとが流れ着きました。“なぎさ”は決まったところではなく、そうしてどこかからだれかやなにかが流れ着いたところをそう呼んでいます。
 その人がいうには、その人のすむ星はとても歩ききれないほどの大きさで、とてもとても果ての見えない大きな“池”があり、その池のフチを“なぎさ”というそうです。
 パップー君の星にはそんな大きな池はありません。
 とてもとても果てが見えないのは宇宙(そら)くらい。
 そのそらのなぎさに身をよせあってくらしています。
 あんまりその人の星は大きいので、クルマというものにのってびゅんびゅんすごいはやさで動きまわるそうです。
 パップー君には想像もつきません。
 あまりにも宇宙は暗く広いのでとてもさびしく、そのせいかあまり人は人と殺しあうようなケンカはしません。
 そんなケンカをしても、おたがいにほかにゆくところがないくらいこの星が小さいことがよくわかっているのかもしれません。
 
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by ben-chicchan | 2005-03-31 11:39 | story

Summer weeds & winter trees

 気がついたらおなかがすいたので、チチュは思いきり鳴いた。
 そうしたらその大きく開けた口にだれかがやわらかくておいしいものを入れてくれた。ずっとチチュをあたためていてくれたふたりだった。そうして交代でおなかが落ち着くものを運んでくれた。
 ふたりがチチュを呼ぶとき「チチュ」というので、チチュは自分がチチュなんだとわかった。
 チチュのほかにそこにはチチュとおなじくらいの大きさのがふたりいた。
 ひとりは「チュ」で、もうひとりは「チュチュ」。
 チチュが初めて目をひらいた時、世界はまぶしくてチチュはくらくらした。ようやく少し慣れて目を細めてみると、チチュのいるところから下の方は一面みどり色だった。
 それは風がくるたびに光り、ざわざわととてもやすらぐ音をたてた。
 あの、あったかくて大きなふたりの胸の音のように、チチュはその音にうっとりとした。
 目が慣れてくると、青い青い空間に夢のような白いかたまりが浮いているのが見えてきた。それは刻々と姿を変え、一時も同じ形をしていなかった。
 チチュがそこにそうしている時、ひとつもたいくつでないのはそのせいだ。
 青いと思っていると、その空間はみるみる色を変えにわかに暗くなり、白かったやわらかそうなあのかたまりはどす黒い湿った重たいものになり、たちまち上の方から透き通った滴が落ちてくる。
 頭の上から時折ぽつんと自分にあたってははじけるそれも、チチュには冷たくてきれいで不思議で驚かされる。
 なんてところだろう!
 なんてたいくつしないところだろう!
 気がついたらここにいた。
 このきらめいてながれていく透明なもののように、始まりがどこだかわからないところから降ってきたのだろうか?チチュも。
 そんな風にはことばにはならないが、そんなようなこころで半分閉じかかった目で遠い
ところをぼんやりみつめていた。
 うつくしくはあるが、ふくふくした羽根をすべっていく水滴は生まれて間もないチチュたちのささやかなぬくもりをぬぐいさろうともする。
 それに対抗するようにわずかなともしびを消すまいとするかのように小さなからだは知らず知らず小刻みにふるえ始めた。内側からいのちを発電するかのようなささやかな営みを尽しながらけなげにじっと耐える。
 毛玉のようなみっつの小さなかたまりが身を寄せあってふるえているところへ、やっと待ち望んだ大きなふたりが帰ってきた。
 いつもの「おみやげ」を口いっぱいにほうばってふたりのおなかの羽毛の下におさまってしばらくすると、ふるえはとまり、大きいふたりのぬくもりはやがてしんからチチュたちをあたためていった。
 そうして吸い込まれるように生まれる前のどこかへとチチュは眠り込んでいった。

 風がふいている。ほおをなでる風はひそやかでやさしい。
 あたたかい日だ。
 たくさんの声がきこえる。
 チチッチッチッ。リュリールリルリル。
 ヒュイーヨッ。 ヒュイーヨッ。
 ヨロコビのこもった声だ。
 青一色のあの空間が澄み切って白いかたまりが光っている。
 世界はあかるくて、すがやかだ。すべてのものがほほえんでいるようだ。
 チチュもワケもなくうれしくて羽根をふくらませた。すると地肌に風が通ってますますうれしくなってブルブルッと身震いした。
 風がチチュたちの上の緑色の重なりあうひさしをずらすごとにキラリッキラリッとまばゆい光が目にまぶしい。
 緑色一面にみえたものが一枚一枚別々に風にそよいでいるのに気がついた。 
 そしておもてとうらと別々のいろをしていてひるがえると光るのがすばらしかった。

 To be continued・・・
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by ben-chicchan | 2005-02-25 22:37 | story