空を歩く

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エンジェル・フライ*4〜キト*

 週末。朝早く、マオは幕張の海浜公園に行った。ひとりで。
 正確にはふたりで。
「東京湾だからね。蒼々ってワケにはいかないケド。海は海だよ。」
 電車でつぶやくとひとりごとのようだ。
 フラウが笑ったようだった。そばにぼうっとぬくもりがまたたく。

 人工の浜は殺風景だが、それでも潮風が開放的な気分を誘う。
「ああ〜・・。」マオは大きく伸びをしながら波打ち際まで行って腰を降ろした。
「波って不思議だね。見てると妙な気分になる。時間がなくなる。」
[ウン。]
 トリが舞う。ひとはいない。
 気がつくととなりにフラウが座っていた。
 フラウはヒメジョオンのようなひそやかな笑いを含ませながら羽根をたたんだ。
 そしてそれを深呼吸して背中に吸い込んだ。ようにマオには見えた。
 羽根が消えていた。
「えっ!?どういうこと?」
「教わったの。こうして人に紛れることも出来るって。」
「だれに?」
「天使仲間。」
「へーっ・・・。」
 あきれたようにマオはフラウの後ろにまわって背中を確かめた。
 羽根がきれいになくなっている。
 どこからみても人間だ。少し輝いているのをのぞけば・・。
「あっ、いけない。」
 そういってフラウは照明を落とすように発光の具合を落とした。
「ほんとだ。」
 可笑しくなってマオは笑った。
「そんなこと教えてくれる仲間がいるんだ。」
「キトはそうして地球上くまなく歩いたそうよ。飛ばずに。」
「へ〜え。」
「彼が特に忘れられないのはアレキサンダーの時代の都だと言ってた。
今でいうアフガニスタンのあたりのね。」
「ふーん。」
「それはそれは立派な城壁に囲まれた街で、円形劇場や神殿や王宮があったって。様々な民族がいて学校もあった。キトは長いことそこに滞在していたんだけど、やがてそこは遊牧民族に滅ぼされてしまったんだって。キトは動くもののいなくなった街を丘から一週間見つめていたそうだけど、やがてそこからまた歩いて長い旅に出たの。」
 マオは一瞬キトが丘から見下ろしているのが見えるような気がした。
 さぞやせつなかったろう。
「どうして歩いて旅をしたの?」
 くくくくと可笑しそうにフラウは笑うと、
「さあね。天使には好奇心の強い物好きもいるから。」
 マオも可笑しくなって、目の前のフラウをこづいた。
「ほんとだ。ここにも。」
 なんだか愉快になってしばらくふたりで笑い合った。
「フラウ。でもそのかっこうはマズイよ。それにその金髪。
髪は染めて服をなんとかしないと。」
 フラウは気がついたように笑うと、ウインクした。
 するとみるみるうちにブルーグレーの瞳に力強い漆黒の色がともり、髪の色もシックにトーンを落としてきて、気がついたらほとんど黒髪になってしまった。
「いや、おっどろいた。ホントニ?自由自在ってこんなことまで?」
「服はちょうだい。」
 あまりに素直な無心にマオは吹き出した。

To be continued‥
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by ben-chicchan | 2006-01-02 12:40 | story

エンジェル・フライ*3〜秋風*

 その日は秋の色が濃くなって、夜は底冷えがした。
 ひとりで部屋にいたマオは自分の胸にしのびこむ秋風を感じていた。

「ああ、むねが痛いよ。フラウ。そこにいる?いるならただ、そっと手をにぎって。」
 机につっぷしたマオの手が蛍がともるようにじんわりあたたかくなった。
 フラウだった。
「あったかくて泣けてくるなあ・・。」
 姿は見えないがそこにいるのがわかった。
「そこにいてくれる・・。
そうやってそっと手をにぎってくれたら、やっていけるような気がする。」
「やすあがりだね。」
 フラウの金の巻き毛がぱさりと首筋にかかった。
「フフフフ。」泣き笑いだ。
「どうした?」
「どうしたってひとりなんだ。例えもし好きな人とうまくいっても、家族がいても、ともだちがいても、このむねの真ん中の洞くつに吹く風のような孤独にむねを締め付けられる。いったいどういうこと?」
「それがその器に生まれ落ちるってことだからよ。」
「どういうこと?」
「大きないのちをわけたものだから。」
「だから寂しいっての?」
「ひとっていきものは哀しみに生まれて喜びにむかっているものだから。」
「?」
「分かたれた哀しみはやがてひとつになる喜びのためにあるの。
その痛みの奥をよくみてごらん?哀しみの皮をかぶったぬくもりもあるはずよ。」
「そんなのだめだよ。哀しみの海だよ。」
 フラウが背中に手をやったのがわかった。
 ゆっくりまるで赤んぼうにするようにさすっている。
 じっとされるがままになっていると、なんだかむねの真ん中の氷のような固まりが溶けてくるようだった。
「ひとはひとりなんだ。どんなに恵まれてても、しあわせでも。それは変わらない。
だけどね、さすられてごらん?こうして万年雪のようなむねにつまった固まりも溶けることもある。ひとの手はなんのためにあるの?ひとをあたためるため。抱きしめるため。それがマオにもできるって、ほんとはスンゴイことなんだよ。」
 スンゴイなんていう天使に可笑しくなって、マオは思わずくっくっくと肩をふるわせた。

To be continued…
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by ben-chicchan | 2006-01-01 15:12 | story