空を歩く

鈴木銀河店

 9月とはいえ近頃の空模様は季節らしくもない。
 暑いんだか涼しいんだかジェットコースターのような寒暖の日々だ。
 そんなある日の午後、僕は会社の用で神田に来ていた。小さな印刷会社の新入社員の常で、外の用はたいがいいいつけられる。僕は営業として入ったので、よけい背広姿を重宝がられて、やれ得意先へ卸元へと遣わされていた。
 あまりに暑いので用を済ませた僕は上着も脱いで少しくらくらとした。日影へ日影へと歩いていたら、いつの間にか小さな路地に出た。
 雨後のたけのこのように次々と生えるビルの間隙をぬって、そこだけしんと湿り気がある。風鈴が下がり、名残りの朝顔の鉢が並び、僕は背中を伝う汗を感じながらほうけたように立ち止まってしまった。
 
 目の中に少し違和感を覚えてなんだろうと焦点を合わせてみると、白いペンキのはげかかった、節のみえる看板がぶら下がっていた。
 声に出して読んでみると、
 そこには
『鈴木銀河店』
 と書いてあった。
(銀河・・?)
 僕はとめどない汗を白いハンカチでぬぐいながら、ためらいがちに1歩、また1歩とその店の前へと立った。
 戦前からあるような年季の入った木造の、氷のように透き通ったガラス戸の小さな店だった。中はいっそうひそとしており、
(やっているのかな?)と思わせる。
 店の中より自分の顔ばかり映るよく磨かれたガラスの奥をのぞくと、白い頭をした貧相な老人が動いたのが見えた。
 と、同時にその老人を目が合ってしまった。
 ニコリとするでもなく、ただうなずいてうるさそうに老人は戸を開けた。
 ふいをつかれて僕は汗も引いてしまい、たちまちあわてた。
「いや、あの、・・別に・・違うんです。」
 老人はも一度一瞥をくれたが、何も言わず奥へ引っ込んでしまった。
 僕は途方に暮れて開いた戸から中を眺めるでもなく眺めた。
 これといって商品が置いてあるわけでもない。板造りの棚はほこりがかぶり、奥の方にごつごつした黒っぽい石が大小2、3、ころがっているだけだ。
 と、そこへ奥からまた老人が顔だけ出した。そして言う。
「見るのかい、見ないのかい。」
 相変わらず抑揚のない顔に声。そしてすぐ引っ込む。
 僕は自分でも思いがけず妙な気になって、
「見、見ます。」
 なんて言ってしまった。
(いったいなにを?)
 はじめ老人が座っていた奥のあがりかまちまでおそるおそる入っていき、その奥をのぞこうとすると思わぬそばにまだ老人がいた。
 多分僕はひっとかなんとか言ったのかもしれない。
 僕が入ってきたのを確認すると、さっさと老人は廊下を歩き出した。
 つきあたりは便所で、直角に曲がって廊下は続き、廊下が囲むように障子の部屋がある。入り口から想像するより、ずいぶん広い造りだ。
 僕はなんだかついお得意さんのところへ入っていくように腰を低くしてしまい、キョロキョロしながらついていった。
 つきあたりの左に階段があて、その急な階段を昇ると松模様のフスマがあった。老人はその前で陰気に待っていて、
「どうぞ。」
 とだけ言って自分はとっとと階段を降りていった。
 老人の足腰のしっかりしているのを妙に感心しながら見送って、はたと僕は困った。
(いったい何が見れるっていうんだ?商売ならいくらとるんだ?どうせいかがわしいもんだろうけど、いかがわしいなら法外な値をふっかけるに決まってる。ここはやっぱり帰った方が・・。)
 と1歩階段を降りかけた時、いきなり後ろのフスマが開いて、閉じた。
 僕は足を滑らせて階段にしりもちをついた。
 今度は冷や汗をかいているのを感じながら踊り場に仁王立ちしている男を見上げた。細面の40がらみのメガネのこれといった特徴のないごく普通のサラリーマンだった。
「ああ、今ならすいてますよ。」
「は、はぁ・・。」
 そして僕の足をまたいで降りてゆこうとするその男に、僕は尋ねた。
「あの、これ一体何が見れるんですか?」
 男は振り返ってけげんな顔をして、
「何って銀河に決まってるでしょ、ギンガに・・。」
 そう言って肩をしゃくって腕をまわしながら
「ひと月にいっぺんくらいは来たくなるよねぇ。」
 と言いつつ玄関の方へすたすた行ってしまった。
 僕はつぶやきながら立ち上がった。
「ギンガァ・・??」
「何わけの分からんこと言ってるんだァ!?」
 そして目の前のフスマを思いっきり開け放った。
「!!!???」
 
 はじめは真っ黒な霧だと思った。
 そんなようなひやりとした感触がしたような気もした。
 真っ暗だ。
 だけど何か流れている。
 皮膚の上をその流れがかすめていく。気がつくと立っていた踊り場はなくて、足元も後ろも天井も全て暗い。フスマは!?と思って目をこらすと、ずいぶん後ろに白くぼうっと浮かんでいた。
 これじゃ足元のない、暗幕をはった芝居小屋だ。
 その暗幕も古ぼけて穴がいくつもあいている。
 !!
 ようやく目が慣れてきて、僕にはその穴が時々尾を引いて流れたりするのが見えた。
「!!星だ!?!」
 いつの間にか上だか下だかそういう感覚のなくなっているのに気づく。
 たぶん大口を開けていただろう僕のななめ上に逆さまになった大黒様のようなばあさんが流れてきた。ばあさんはニコニコしながら言った。
「はじめてですかい?お客さん。」
 僕は口を開けたまま、うんうんとうなずいた。
「今日はねぇ、隕石のいいのが流れてなくってねぇ。でもね、ほら、平日の昼はすいてていいでしょう。」
 そういって僕の相づちも待たずにまたすーっとばあさんは流れていった。
「ああ、そうそう、地球には降りないでくださいよ。必ずフスマから帰るんですよ。今日はあすこは恐竜時代ですからね。」
 僕の耳にばあさんの声だけが残った。まわりをよく見回すと、幾人かは僕以外の客がいた。僕のようにキョロキョロしているのも、目を閉じて瞑想にふけっているのもいた。
 何時間ぐらいそこにいたのか、僕には分からなかった。
 入る前よりももっとほうけたようになって、僕は店を出た。
 キツイ日差しに思わず手をかざした。遠くから街のざわめきが僕の方へ返ってくるようだった。時計を見るとなんのことはない、15分しか経っていない。
 僕はもう一度店を振り返って刻み込むように見つめてから歩きだした。心なしか手足の先までだんだんと気力が充ちてくるのを感じながら。

 それから僕は何かと神田方面に用を作り、しばしば店へ向かった。そうしているうちに利用客の一人からうわさを聞いた。
「どうやら移転するようですよ。ここ。」
「えっ?・・・いったいどこに?」
「さぁ・・じいさんもばあさんも分からないって言うばかりでね。」
 それはいつも、“思っていた”ことだった。行くと消えている店の夢を何度見たことか。
「どうしてでしょうね?」
「さぁ・・どうしようもないとは言ってましたけどね。」
 それからさらにふた月経った頃、僕はまたあの角を曲がってその路地へ入った。とたんに異変を感じて立ち止まった。
 看板が違う。
 そこには
『鈴木クリーニング店』と面白くもなんともなく書かれてあるのだ。
 来る時が来たと思った僕は、そうなるとどうなるのか見届けたくなって店をのぞいた。中はすっかりクリーニング店で、だけど、あの老人がむっつり仕事をしていた。
 少し拍子抜けして戸を開けると、老人はジロリと例のごとく見ただけで、仕事の手は止めない。
「今日は銀河はやってないんですか?」
「・・・。」
「おばあさんはいらっしゃいますか?」
「ウチはクリーニング屋だよ。クリーニングかい?そうでないのかい?」
「・・・。」
 僕は相変わらずとりつくしまのない相手にあきらめて戸を閉めた。
 歩きながら僕はこの日が来るのが分かっていたのに、何もあの店のことを知らなかったのにがくぜんとしながら、一方でそれを当然のようにも思っていた。
 あの店に来る客たちは、はんで押したように何も聞かなかった。驚きはすれど、なぜかいつの間にか暗黙の了解のようにおとなしく仲良く銀河に浮かんでいた。客同志名前を聞くこともなかったのだ。
「空間が閉じたのかな・・。」
 僕はぼんやりこう思っていた。
「と、いうことはどこかでまた、肉屋の押し入れなんかで店が開くんだろう。」
(ただ、肉屋が気がつけばのことだけれど・・。)
 僕は思いながらあの福々しいばあさんの顔を思い起こしていた。

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# by ben-chicchan | 2006-09-20 16:45 | story

竜に会いたい、と思った。

どうしてか懐かしいと思った
すると突然思い出した
ルシファーが落ちた時、その場にいた
引き裂かれるように哀しかった

泣いた

落ちた魂の片割れを探して
自分の出所も忘れて
ここへ生まれた

引き裂かれたものは
ひとつになるためにある
竜がその時いたのか?
それともわれわれが竜なのか?

真実は神話として
語り継がれるしか今はない
三次元の檻の中で
異次元のファンタジアとして奏でられる
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# by ben-chicchan | 2006-09-14 17:42 |

ルシファー

このむねのカルマに
核があるという

ふれようとしても
ドーナツ状に
空となり
その核心をはずすだけ

手のひらをむけ
そっとさわった

ありありと指先に
その1点でしかない1点

まるで多次元の排水孔のように
はるかむねの奥へと通じ
まるでそれ以上進むことを許さぬかのように存在を表明し

圧倒されないよう
切心で一者に向かう

探してた
たったひとつのカルマの源

その名が今日知れた

ルシファー

たったひとつの言葉でなく
これほどに大きな存在ひとつであったのか
万華鏡のように

すべてのむねに在ること
知られることから葬られ
せつなくたしかに闇に在る

けれども同時にそれすらも抱かれていること知らざるをえない
世界を生んだものに


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# by ben-chicchan | 2006-08-09 19:17 |

問い

まなぶとはなに?

いのちとはなに?

いきるとはなに?

いとおしむとは?


にんげんとはなに?

じぶんとは?

にんげんとしていきるとは?

かなしみとは?


くるしみとはなに?

よろこびとはなに?

にくしみとはなに?

いつくしむとは?


うつくしいとはなに?

みにくいとは?

かんどうとはなに?

りんじんとは?

そして

しぬ、とは?


ひとつひとつの問いが
わたくしをかたちづくっている
ひとつ答えるごとに
わたくしの石炭は燃ゆる

問うためにうまれ
問うために生き
そして往く

はら
はら
と泣きよる
からだのうちを塩っぱくてきゅんとしたものが伝う

問いのある
ヨロコビ

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# by ben-chicchan | 2006-07-11 18:17 |

SETU

切心

すこし
痛いような
せつなさ
の源泉

孤独のようで
孤独だけでなく

むしろ
孤独ではなく

きん


りん


たして2で割り

きゅん
の湧きいづる

切って
毒を瀉したむこうの
純白の新雪

あなたのむねのそれと

わたしのむねのそれ

つながり

雪原は
地平までひらけてゆく

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# by ben-chicchan | 2006-06-21 17:46 |

エンジェル・フライ*9〜雨*

 オン・ブラ・マイ・フというピアノの曲がかかっていた。
 素朴な旋律のそれは雨のようにマオのこころにしみてきた。
 窓の外を水滴がつたう。
 つぶやいた。
「よく降るね。でも、こんな曲がかかると雨の日もわるくないね。」
 姿は見せないが、螢のようなぬくもりをともなってフラウが答えた。
[そう。人類の雨によく似合うね。]
「人類の雨?」
[うん。雨はにんげんのせつなさで出来ている。それがたまると降ってくる。]
「涙みたい。」
[そうだよ。]
 フランが口をはさんだ。
[地上を浄化するために降るんだ。]
「台風も?」
[もちろん。]
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# by ben-chicchan | 2006-05-11 16:45 | story

アカルイミライ

信じるまでもなく
ある

いっしょうけんめい
信じまいとする

おかしいくらい

けなげなくらい

でもほら
桜がばらしてる

このそらにすでにある

アカルイミライ
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# by ben-chicchan | 2006-04-06 17:02 |

さよなら地球 〜サム〜

 (さよなら!さよなら!なにもかも消え失せる。輝いていた新緑も、傷つけあった日々も。たとえ極悪非道であっても、そこにひとがいたことはこのうえなくいとおしい。戦争も破壊も、そんなことができたのはこの星があったからだ。さようなら。すべて。)
 サムは子供のように泣いた。
 横に立つアバローキテシュバラは静かにうなずいたようだった。
 (こんな日が来ることをもっと今日のように切実に知っていたなら、ひとはこうも無軌道にことを為しただろうか・・。知っていたなら・・。)
 それに対するアバローキテシュバラの答えは分かっていた。
 (数え切れない警告、信号、諭し、融合、それらを全て人間は選ばなかったというのですね?)
 アバローキテシュバラはただ黙ってそこに立っていた。
 (たとえこの旅路が高次元への素晴らしいものだとしてもわたしは泣きます。このいとおしい世界は失われる。それはわたしの一部が失われるのと一緒だ。どんなに醜いものでもこんなにもいとおしいものだとは思わなかった。)
 いたわるようにアバローキテシュバラは手を差し伸べた。
 その手をとった時、サムは一瞬にしてアバローキテシュバラの何万劫年の時を理解した。
 (この哀しみを星の数ほど経験しているから、こんなにもわたしたちに寄り添ってくれ続けたのですか・・。)

 もの言わぬアバローキテシュバラの瞳は広大で果てしなく澄んでいた。
[すべてすべて許しなさい。あらゆる事を。あらゆる人を。ただひとりの例外もなく。それはつまり、あなた自身も解き放つということだ。]
(わたしは世界ではなく、わたしを許していなかったのですね?)
[そうして闘い尽くして来た。すべてを滅ぼすまで。]
(わたしは、わたしを許していなかったのか・・・。けれどももう遅い。)
 アバローキテシュバラは蓮の花弁のようにふわっと微笑んだ。
[今、この瞬間、目覚め、解き放つなら、遅すぎることは何ひとつない。]
(えっ!?)
 アバローキテシュバラがむこうを向いた瞬間、まるで太陽が百億落ちて来たようなすさまじい光に襲われた。

 すべては蒸発し、あとかたも残らなかった。なのに、意識のなごりは真空をたなびいた。(許しということはこういうこと。歓喜というのはこういうもの。どこにも争いも痛みもない。このことをどうして分からなかったのか・・・。)
 はてしなくたなびく意識の素粒子は、やがて久遠の彼方で再び結びあう。そうして新しい進化は始まる。
 またしても始まりは始まるのだった。
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# by ben-chicchan | 2006-04-05 16:48 | story

さよなら地球 〜爽太〜

「ばあちゃん、ほんとうに終わるんだね?」
「ああ、そうらしいね。」
「なにもかも?」
「そうさ。」
「あしたには?すべて?」
 ばあちゃんはもうなにも言わずに夕焼けをみた。
 爽太ももうなにも言えなかった。
 きのうから世界は崩壊を始めていた。
 たががはずれた。
 すべてをつなぎとめていたなにかがゆるんだんだ。
 これはほんとうのことなんだ。
 おとといまで明日を信じていた。まるで明日は永遠にあるかのように。
 答えないばあちゃんに向かってつぶやく。
「こんな日が来るってわかっていたら、あんなに人を傷つけるんじゃなかった・・。もう、あやまることもできない。」
「・・争うっていったいなんだったんだろう?この惑星(ほし)があったから戦争もしていられたんだ・・。」
「憎しみ合うことすらもうできなくなるんだね。」
「ばあちゃん、」
 爽太はそっと手をのばした。
「手、つないでていい?」
 ばあちゃんはうなずいて細い手首をさしだした。
「爽太、こんなことならお前も父さんや母さんといっしょに往っておきゃあよかったね。」
 爽太はすこし黙ると、首をふった。
「いいや。やっぱり生きててよかったよ。14年の人生だったけど、いろんな想いをすることができた。」
「そうかい?」
「楽しい想いもしたさ。しんどいこともあったけど。そりゃあ、もう少しいろいろ経験したかった。だけど、この地球上みんなこれから同じ体験をするんだ。これだけいっしょなら、こわいけどこころづよくもあるってもんさ。」
 ばあちゃんはかるく笑った。
「おまえは思ったより強い子だったんだねえ。大人も嘆き哀しんでこわがっているっていうのに。」
「アバローがね、言ったんだ。いっしょについててやるから大丈夫だって。」
「だれだい?それ?」
「あ、言わなかったけど、時々僕に会いに来るおじさんでどうも僕のことよく知ってるみたいなんだ。」
「どんな人?」
「なんだか白い衣をからだに巻き付けたほっそりしたひと。ほら、あんな感じの。」
 そういって仏壇の観音様をさした。
 ばあちゃんは一瞬だまって
「おまえ、今あばろうといったかい?」
「うん?」
「それは、あばろうきてしゅばらと言わなかったかい?」
「あ、そんな感じ。でも長くて覚えらんなかったから、アバローって呼んでる。」
「あほ、それは観音様じゃ。」
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# by ben-chicchan | 2006-04-02 22:28 | story

エンジェル・フライ*8〜出会い*

 街には少し高台の地形があった。
 想いに引かれるようにそこに出た。駅前の高層ビルの手前の、道路の上をまたぐ橋のところまで来てマオは足を止めた。
 フラウが言った。
「ああ、あの空はいいね・・。ここじゃないところでも見たね。」
「ウン。」
 フランのささやかなうなずきも感じた。
 そういわれれば、そんな気がマオもした。
「違う星でってこと?」
「はるかな別のときと場所で。」
「たぶんマオも見てるんだよ。その頃ね。」
「もしかして、フラウやフランと会ったのははじめてじゃないの?」
「出会いなんてのはそういうもんさ。思い出せないくらい前かもしれなくても、そんなもんさ。」
 フランはそう言って飛んだような気がした。
 フラウはまだかたわらにいて少し思い入れるように橋の下を眺めていた。
「ひとがぱらぱらいるね。この星のひとが。」
「他の星もなつかしい?」
「ううん。いつでも行けるもの。」
 そういって振り返ってきんぽうげのように笑うと、黄金色の光がまたたいた。
 そしてフラウも飛んだ。

 天使を見送ってマオはじんじんとしみるような天使時間の余韻を味わいながら、階段を降りていった。
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# by ben-chicchan | 2006-03-05 09:20 | story