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空を歩く

ハーティ& ダーティ〜1〜

 ハーティは町に住むりっぱなカラスです。
だけど、カラスはあんまり町では好かれていません。それはまっくろで大きなくちばしをしていてちょっとこわそうで、ゴミをあさってくらしているからです。
 でも、ハーティはほんとは気がよわくてやさしいカラスでした。
 公園のベンチにかわいい赤ちゃんがいると、そばによってうっとり見つめるのが好きでした。
 だけど、赤ちゃんのおかあさんはハーティのことをこわがって、おとうさんには石をなげられました。
 カラスはからだが大きいので、もちろんいばっているカラスも中にはいます。
 ハーティはそんなカラスたちにいじめられてもいました。
「なんだいへんなやつ。」
「こいつはほんとにカラスかい?」
「このなさけないかおをみろよ。」
「カラスの風上(かざかみ)にもおけないぜ。」
 そういってカッカッカとみんなでわらうのです。
 ときにはうっぷんばらしにくちばしでつつかれたりもしました。
 理由(りゆう)なんかありません。
 なんだかおもしろくないからつつくのです。つついたらハーティがどうするかをおもしろがってやるのです。
 ハーティはいつもにげました。
 おっかけてくるのもいましたが、それでもにげました。
 だからハーティはいつもひとりでした。
「赤ちゃんのほっぺはゆきのようにふわふわだな。そっとさわってみたいなあ。」
 さみしかったハーティは、赤ちゃんのえがおが好きでした。
 ある日、いつものようにひとりでけやきの木にとまっていると、赤いやねの小さな家のにわで赤ちゃんがないているのが目にはいりました。
「あれあれ、あんなにないているよ。だれもいないのかな、かわいそうに。」
 はねをひろげてとびたつと、赤ちゃんのないている乳母車(うばぐるま)におりました。
「やあ。どうしたの?」
 赤ちゃんはなきながらいいました。
「ひっく。ママがね、でんわにでてったきりかえってこないの。ひっく。きっとまたながいことおはなししてるんだ。だけど、ひっく。ここはおひさまがあたってあついの。だからないてるの。ひっく。」
「そっか。じゃあ、ママがかえってくるまでこうしててあげるから。」
 そういってハーティはじぶんのくろいはねをそっとひろげて赤ちゃんをひざしからまもってあげました。
「どう?」
「うん。いいね。ありがと。」
 そういって赤ちゃんはわらいました。
「きみのほっぺにちょっとだけさわってもいい?」
「いいよ。」
 ハーティはうれしそうに目をほそめてそっとくちばしを赤ちゃんにちかづけました。
 そのとき、かなきり声がしてアイロンがとんできました。
 アイロンはハーティのおなかにあたってハーティはひめいをあげてとびたちました。
 赤ちゃんは大声でなきました。
「わーん!ママ!なにするの!」
 ハーティはふらふらととんでいきました。
 ハーティが住んでいるのは古いアパートの屋上(おくじょう)です。いのちからがらようやくそこまでたどりついて、ぶかっこうな巣(す)にたおれこみました。
 おなかはいたみましたが、もっといたんだのはむねのほうでした。
 くろいひとみからなにかがポロっとこぼれました。
「どうしてこんなにむねがいたいんだろう?それにいまぼくの目からこぼれたのはなに?」
 なかまたちにいじめられたときもそんなことはあったけど、こんどのはまたもっといたかった。
「・・さみしいなあ。」
 ハーティはふかいためいきをついて目をとじ、くちばしをはねにうずめてしずかにうずくまりました。

 To be continued … 
# by ben-chicchan | 2007-04-23 18:41 | story

迷子のライト・チャイルド

  ハバロフスクってとこはいうまでもなく寒いところだった。
 南半球用のぼくの身体には少々こたえた。脳ずいを寒気が駆けのぼってきて、ぼくの中にしんと沈む。そのあとでみるみるうちに震えがくるのだった。
 空港から郵便配達の袋にまぎれて街へ出たぼくを待っていたのは大陸的なだだっぴろい区画割りのあっさりした街だった。街にはつきものの繁華街というのが目につかない。やがて夜になれば灯りがともり、それとわかるのだろうが。
 道ゆく人はここで生きるにはこうしてゆくのがいいという風に淡々とした顔をして急ぐでもなく、ゆっくりとでもなく行き交っている。誰もかれもコートをまとい、頭にはフォックスの毛皮を必ずといっていいほどかぶっていた。
 なのにぼくの後ろ足の肉球はじかのまま冷たい大地に降ろされている。だが、身体というのは不思議なもので、少々の修正はきくらしく、ぼくがこの身体を選んだのはあながち悪い選択でもなかったようだ。
 オーストラリアの中でも割と厳しい環境の中で育つ“ぼく”に、寒いとはいえここはやさしかった。
 それにここの建物のぶ厚い石造りの壁は、ぼくに120光年前に立ち寄った琴座の衛星を思い起こさせた。
 飛行機から降りて何時間かの間に、ぼくはもうここに“とりあえず”以上の愛着を覚え始めていた。
 
 ある1軒の建物の入り口からぼくは三番目の引きずる足をはさまぬように滑り込んだ。頭から粉砂糖菓子のようになって、やがてそれが溶けて冷たくなってくるのを感じながら、ぼくは木造りの床を、階段を横目に静かに奥へと入っていった。
 なぜなら一番奥のドアが開いていて、かすかな声がしたからだ。
 ぼくの足1本分ぐらいに開いたドアの隙間からうかがうと、そこは窓がひとつしかない小さめの部屋でベッドがひとつとその横にホーローの洗面器とが置いてあり、そこにタオルがかけてあった。
 窓辺にはこの寒空の下どこから手に入れたのか、白い可憐な花が茎はたくましくひとつ咲いている。
「ぞうの足は丸太んぼう♪かばの口は肘掛け椅子♪キリンの首は火の見やぐら・・♪」
 小さな声は少し節をつけて歌っていたようだ。
 が、ドアの影の気配に気づいてこう呼び掛けた。
「フランチェスカ。ぼくもうずっとおりこうにしてたからはやく動物園に連れてって。」
 ぼくは自分に語りかけられたような気がしたのでどうしたものかと迷ったが、その時、外の扉が開いて大声と物がぶつかる大きな音がしたのに押されるように、その部屋へと入り込んでしまった。
 ぼくの目にはじめてその声の主の顔が映った。やわらかいさざめくような金髪で、瞳はアルファケンタウリの鉱石のような透き通った青緑色だった。
 彼は相変わらず言った。
「ぼくね、もうこの歌100万べんも歌ったよ。あとどのくらい歌ってればぞうのひげにさわれるの?」
 その時、ぼくはようやっとその透き通った瞳に光がないのに気がついた。
 ぼくが前に立ってもその瞳に動きはない。
 ぼくは何と答えようかとその顔のあたりにまでかがんで鼻先を近づけた。そしてこの身体の習性のなごりでついにおいをかぐように鼻をひくひくさせてしまった。
 するとぼくのひげが彼のほおに触れて彼ははじめてビクリと体をふるわせた。
「だれ?」
 はじめ彼のように声を出すためにこの身体で踏む手順はやっかいだったが、やっとしぼり出すように彼をまねて言った。
「だれ?」
 動かなかった瞳は不思議そうにくるんとした。
 少し好奇心に上気した彼は右手をぼくの方に伸ばしてきた。ぼくはあえて動かなかった。ぼくの顔をなぜるのも。耳を引っ張るのもなすがままに。
「カンガルーだ!」
 彼は叫んだ。
「カンガルーがぼくに会いに来た!」
 それからぼくらの話は早かった。
 彼はぼくよりもぼくを知っていて、ぼくはただ、「フーン。」とか「へ〜え。」とかあいづちを打つばかりだった。
「でもぼく知らなかった。カンガルーがしゃべるなんて。」
 ぼくも知らなかった。ぼくがカンガルーだなんて。
 そうしてぼくは彼、サーシャの友達になった。
 
To be continued … 
# by ben-chicchan | 2007-01-31 18:11 | story

ケッパー・カッピー事情

 その生き物は今もいると僕はいきつけのバーのマスターに聞いた。
 マスターは涼しい顔をして時々僕を煙に巻くようなことを言う。
 その生き物とは---。僕がジンの2杯目に舌をつけた頃、マスターは言った。
「ケッパー・カッピーって知ってるかい?」
「え?だれだって?」
「カッピーさ。知らんね、そのカオじゃ。」
 僕は古いジャズトランペッターかだれかかと思い、少し興味を持って尋ねた。
「なにする人だい?」
「別に。」
「??」
 僕は言葉の意味がよく飲み込めなくて再び尋ねた。
「ジャズ?それとも小説かなんか書いた人?」
「別に何かしたってワケじゃないんだ。」
 また分からないことを言う。僕はこの遊びに慣れていたのであきらめずに聞いた。
「それじゃ知るワケない。だれさ。」
「だれでもないんだよ。ケッパー・カッピーさ。」
 僕はジンがまわっていい気分になって黙った。
「・・・。」
 かまわずマスターは続けた。客はもう初老の男が帰り支度をしているだけだった。どうやら僕はつかまったらしかった。グラスをふきながらマスターは言う。
「オレが聞いたのはマスターになりたての頃、靴磨きのおっさんからだった。あんたと同じことを聞いたよ。そしたらオレと同じこと言いやがった。」
「そう、カッピーってのはね、どこにもいるんだ。南にも北にも。水のあるところなら都会にも。東洋にもいるって言ってた。日本にも伝説のように話が残ってるらしい。」
「・・・。」
「そいつを見たことはオレもない。どんなヤツかは聞いた。それと、そう、そいつの仕業らしきことにはオレも出会った。」
「どんなことをするかって?たわいのないことさ。バスの釣り銭をごまかしたり、風もないのに木を揺らしたり。だが、たいていは罪のないことさ。」
「ところによってはこわい話になってることもある。だが、オレの聞いた限りじゃヤツはただ、オレたちの世界のとなりに生きてるだけなんだ。そしてオレたちより多くのものと話せる。イヌやネズミや自動販売機なんかとね。」
 僕はカウンターの上に肘をついて頬づえしながら、ぼんやりそいつの面影を追っていた。
「なんでかおっさんはえらく詳しかったね。きっと会ったんだろう。会って話したんだろうな。そこまで聞いたかはオレは忘れたが・・。ヤツの弱味はケッパー(フウチョウソウ科の低木のつぼみのピクルス)。食べると熱を出すって言ってた。たまたまおっさんの知ってるヤツがそうだったのかもしれないがね。いつもコートを引きずって、帽子を深くかぶっているって言ってた。髪は伸ばしっぱなしで、まぁ、一見浮浪者みたいなんだろうな。ひとつ違うのはツメが黒く長く、指の間に水カキがあるってことだ。だから、一体、どういう生き物なのかはわからないのさ。そんなのは図鑑にものってないしね。そんなに会えないし。少ないのかもしれない。それともヤツの領分とオレたちの領分が重なっているようで重なっていないのかもしれない。」
 僕はジンに入っていたレモンを頬ばって、頬づえをついたまま聞いていた。
 頬づえに似合わず、僕はずいぶん熱心になって聞いていた。
 僕のしびれた脳に、ヤツの姿が映っていた。真夜中の自動販売機と話をするケッパー・カッピー。
「どうしたら会える?」
 僕は自分でも知らずに聞いていた。
「オレが聞きたい。」
 マスターはいつもの思わせぶりな笑いで答えた。
「危なくないヤツかい?それともこっちの出方によるかい?」
「言ったろ?ただ、となりで生きてるだけなんだ。危なきゃとうに戦争になってる。」
「何のために自動販売機と話をしてるんだ?」
「ハラがへると話を食べるんだよ。」
「!?」
「ヤツは自分以外のものと話をして生きてるんだ。ただ、好奇心の強いヤツだから、オレたちのマネをしてみることもある。ケッパー入りスモークサーモンを食ったりね。おかげで熱を出したりね。」
 僕は頬づえするのも忘れてぼんやりマスターのヒゲが上下するのを見ていた。
「何のために生きてる?」
「さあね。生きるために生きてるんだろ?」
「学校なんかないのかな?」
「まわりってもんがみんな学校なんだろ。」
「ガールフレンドは?」
「そんなこと知るかよ。自分で聞けよ。」
 マスターは少し苦笑して僕にレモンスカッシュを作ってくれた。
 
 店の扉を閉めると外は満天の星空だった。冬のせいで星は凍てついたダイヤモンドダストのように鮮やかにまたたいている。
 僕はほてった頬を冷たい手で覆いながら、背中をまるめて雪道を踏みしめた。
 たんたんと。淡々と。
 ケッパー・カッピーのように、たんたんと足を右、左と前へ運びながら街灯の声を聞こうとしていた。
# by ben-chicchan | 2006-12-13 19:29 | story

ワンダホ・リバー

わたしのおばあさんはいいました
すばらしい河のはなしを知ってるかい?

おまえがたくさんつらい想いをし
いろいろないのちのために泣き
たくさんのいのちにあたためてもらい
陽の光のいろがわかるようになったころ

その河はあらわれる

激流だとばかり思っていた河は
大きくたゆたって
たくさんのいのちとかなしみをかかえたまま流れ

おまえをやわらかくあたたかく
運ぶだろう

おまえのすることは
やすらいで笑うだけ

まちがえないで
これは
つくりばなしじゃないんだよ

それはどこにあるの?ときいたわたしに
おばあさんは花のように笑い
太陽のようにわたしをだきしめていいました

ここさ

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# by ben-chicchan | 2006-11-03 09:16 |

ワンダホ・マウンテン

ある山を知っている
キミもホントハ知ッテイル
その山のはなしです

それはある人から見ると南にあって
ある人から見ると西にある
ある人は遠いところにあるといい
またある人はそんなものはないとワラウまたはナク

でもボクハ知ッテシマッタ

その山は
ボクの足のすぐ下にはえたばかり
ボクは生まれる前からほんとうは
そこに種が埋まってるのを知っていた
ボクはやっと50になって思い出したんだ

するとそれははじかれたように芽吹く

山はボクにこたえて育ちはじめた
ボクが空をみあげるたびに背たけをのばし
ボクが花をみて泣くたびに木はしげり
とりと話せば葉は色づくだろう

やがて

ボクを星までつれてゆくだろう

ここに
その山はある
wonderful

キミがいる
そこに
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# by ben-chicchan | 2006-10-31 15:46 |