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空を歩く

エンジェル・フライ*2〜菩提樹*

 月曜日。 ヤエが近寄ってきた。
「おはよう。」
「おはよ。」
「おとといのニュース見た?」
「なんの?」
「ほら、天使が現れたとかなんとか。」
「ああ、」
 フラウのバラの香りがマオの鼻をくすぐった。姿を消して学校へ一緒に来ている。
「なんなんだろねー。ニュースもたまにはいいのやるじゃん。」
「そうだね。」
「あれ?」
「え?」
「マオ、髪切ったんだ!いつ?」
「きのう。」
「なーに?なんかあった?」
 ヤエはニヤニヤと面白そうにマオの顔をのぞきこんだ。
「別に。気分転換だよ。」
「ふーん。」
 そういってマオの横に座り込んでヤエはため息をついた。
「なに?どうしたの?」
「きいてよ。またあいつら。人のことのけものにして笑ってる。」
 クラスのサヤカたちのことだ。いつも誰かをターゲットにしてひそかに冷たく笑い者にしてうさをはらしている。
「今度はヤエなの?けっこう仲良くやってたじゃない。」
「そんなの表面上だよ。うまくつきあわないとさ、クラスにいづらいじゃん。」
 廊下にサヤカたちの笑い声が響いてきた。
「またね。マオとしゃべるとほっとするよ。」
 そういってヤエはチャンネルを変え、テンションをあげてサヤカたちのところへもどっていった。
[なんだかたいへんだね。]
 フラウの声が内に響いた。
(ウン。)
[どっちもね。]
(ウン。)

 昼休みは表へ出た。教室で食べると息がつまる。校庭の中庭の菩提樹の下がマオのお気に入りだった。
[いい樹だね。好きだった修道院の庭にもあった。]
 今日はフラウとふたりだ。
「修道院にいたの?」
[そう。50年くらいかな。好きなシスターがいたの。]
「へえ。」
[その人はそばによるととてもあたたかくていい香りがした。]
「フラウみたいじゃない。」
[フフ。その人がね。こんなことを言ってた。]
「・・。」
[たったひとりのその人のために。]
「たったひとりのその人のため?」
[うん。]
「どういう意味?」
[目の前のたったひとりのためにわたしはそこにいるって言ってた。その二度とないその時にわたしがその人とともにいるのは、わたしがその人のために何かができるからなんだって。]
「できるって何を?」
[例えばどこかが痛いならさすってあげたり、こころが苦しいなら話をきいてあげられたり、そっとしてほしいならこころでともにありながらそっとしておいてあげられるってこと。その人がその時一瞬でも本来のその人であることができた時、わたしがここにいる意味があるって。]
「ここにいる意味?」
[そう言ってたね。そのシスターは。]
「ここにいる意味、なんて考えたこともなかった・・。」

To be continued…
by ben-chicchan | 2005-12-05 18:17 | story
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